福岡高等裁判所 昭和35年(ネ)621号 判決 1961年3月06日
控訴人 福利産業株式会社
被控訴人 西田政市 外一名
主文
原判決を次のとおり変更する。
控訴人は各被控訴人に対し金六〇、〇〇〇円宛及びこれに対する昭和三三年四月五日以降完済まで各年五分の割合による金員を支払え。
被控訴人両名のその余の請求を棄却する。
訴訟費用は第一、二審とも五分しその三を被控訴人両名のその二を控訴人の負担とする。
この判決は各被控訴人においてそれぞれ金一〇、〇〇〇円の担保を供するときは仮りに執行することができる。
事実
控訴代理人は「原判決中控訴人敗訴部分を取消す、被控訴人両名の請求を棄却する、訴訟費用は第一、二審とも被控訴人等の負担とする」旨の判決を求め、被控訴人両名(被控訴人西田弘子は口頭弁論期日に出頭しないが、陳述したとみなした控訴状による)は「本件控訴を棄却する、控訴費用は控訴人の負担とする」旨の判決を求めた。
当事者双方の主張、証拠関係は、控訴人において乙第一号証を提出し、当審証人森秀雄、桑原正義の各証言を援用し、被控訴人西田政市において乙第一号証の成立を認めたほか、原判決事実摘示と同一であるからこれを引用する。
理由
被控訴人両名間の長女広美が被控訴人等主張の日時場所において控訴会社の運転者山崎昭三の運転する貨物自動車に接触して傷害を受けそのためその主張の日死亡したこと、右死亡は山崎昭三の過失に基因すること、右山崎昭三の不法行為について控訴会社が民法七一五条第一項による使用者責任を負担すべきこと、同条項但書による免責事由の認めがたいことについての当裁判所の判断は右原判決の示すのと同一であるからこれを引用する。(原判決理由の冒頭から、七枚目表六行まで)
そこで控訴人の負担すべき慰藉料の額について検討する。控訴人は、本件について被控訴人等は既に自動車損害賠償保障法により保険会社から金一六七、八三〇円の支払を受けているから、損害は全部填補されていて最早損害は存しない。仮りに控訴人において更に賠償義務があるとしても、被害者の親権者たる被控訴人両名にも監護義務違反の過失があるので損害額の算定については右過失は斟酌されるべきであると主張するので、まづこの点について判断する。被控訴人両名が自動車損害賠償保障法により本件交通事故に基く損害の賠償として控訴人主張の金員の支払を受けていることは当事者間に争がないが、右金員が被控訴人両名の被害者の両親としての民法七一一条による慰藉料請求権に対するものとして支払われたものであるか否か明らかでなく、却つて当審証人桑原正義の証言によると右金員は全額慰藉料に該当するものではなく、見舞金、入院費、葬式費等被控訴人両名が本件事故に関連して支出した諸費用等の賠償も包含されていることが推認されるし、右金員中に被控訴人両名に対する慰藉料が含まれていると仮定しても、その額は明らかでなく、しかもかゝる慰藉料は被控訴人等の精神上の苦痛を慰藉する額を定めるについて斟酌すべき一事由たりえても、これを控除したり或はこれを以て十分に償われたとは到底考えられぬから、この点についての控訴人の主張は採用できない。
次に、被害者広美が本件事故当時満六才であつたことは当事者間に争ないところ、被控訴人西田政市の原審第一回の本人尋問の結果によると、本件事故は同被控訴人が右広美を伴い外出先よりバスで帰途につき前記停留所で下車した直後発生したものであることが認められる。しかして前記本件事故現場並びにその発生の状況よりすると、停車中のバスの向い側を他の自動車が通過する場合のあることは十分に予想できるところであり、また、バス停留所の筋向いが自宅であつてみれば、帰宅を急ぐあまり左右の交通状況などを顧慮するいとまもなく道路を横断しようとすることは、満六才程度の児童においては当然考えられるところであるから、同被控訴人は自ら広美を傍らに連れて帰宅するか、もしくはバスから降車する際または降車直後にでも適宜注意を与えて道路横断の際の安全を確認させる等事故の発生を未然に防止するに足る措置を講ずべき義務があるというべきである。しかるに同被控訴人においてこのような注意をしたことを認めるに足る証拠は存しないから、同被控訴人には本件事故につき過失あるものというべきところ、同被控訴人の過失は、本件の如く両親が幼児の生命を害された慰藉料を請求する場合にはその双方に民法七二二条二項の適用あるものと解する(昭和三四年一一月二六日最高裁判決、民一三巻一五七三頁)。
よつてその額について考えるに、前記甲第二号証の九によつて認められる被控訴人両名が控訴人から香典一〇、〇〇〇円、花輪一対、清酒二升を、運転者山崎昭三及びその助手から計八〇〇円の香典をそれぞれ受領している事実及び前記の如く自動車損害賠償保障法に基く金一六七、八三〇円を受領していること並びにさきに認定した本件事故の状況、当事者双方の資産、社会的地位、その他諸般の状況を綜合して、控訴人は各被控訴人に対し各金六〇、〇〇〇円の慰藉料を支払うべきものと認める。よつて被控訴人等の本訴請求中、各金六〇、〇〇〇円及び右各金員に対する訴状送達の翌日たること記録上明らかな昭和三三年四月五日以降完済まで年五分の割合による遅延損害金の支払を求める限度において正当として認容しその余の請求を棄却すべきである。以上と異る原判決は右の如く変更することとし、民事訴訟法第三八六条三八四条九二条九三条一九六条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 中園原一 亀川清 小川宜夫)